『12モンキーズ』

公開当時からテーマ曲である組曲プンタ・デル・エステが耳について離れなかった。
高層ビルの上を飛んでいくフラミンゴ。建物の上で吠えるライオン。そんなイメージを映像に定着させている。それを観ただけでギリアムの映画だという事がわかる。

『12モンキーズ』のDVDを買った。
テリー・ギリアム監督は大好きだ。
この映画のDVDは以前から出ていたが、LDを持ってる事もありなんとなく購入せずにいたのだ。
が、このほどLDで別売りされていたメイキング込みでDVD化されたので即刻購入したのである。
しかも監督とプロデューサーのオーディオコメンタリー付き。
DVDも買うタイミング次第だなあと思う。待てば今回のように特典がおいしい状態で購入できる。が、待つだけ待って絶版になる事もあるから油断できない。

劇場、LDやビデオでは字幕で観た『12モンキーズ』だが、いつものようにDVDは日本語吹き替えで観た。
すると画面に集中したおかげで字幕を読んでいて気が付かなかった映像のディテールが見えてきた。
精神病院を脱走しようとしていたコールがレントゲン室の機械の動きを見るシーンがあるが、それは観客にタイムトラベルする時の機械と酷似していると言う事に気が付かせるシーンだという事に今回初めて気が付いた。コールの眼を通して分からせる部分であったのだが、今までオイラはまるで気が付かなかったのである。
こんな些細な事であっても、オイラはずいぶん見逃してる部分や理解が足りなかった部分があったなとDVDを観て反省をした。
更に時々聞こえる声が誰の声なのかというのを悩んだりしたのだが、コールにだけ聞こえる妄想の声と考えれば納得がいく。
ウィルスで死滅しつつある未来世界の人類も、タイムトラベルもすべてコールの妄想かもしれないという解釈もあり得る、そういう構造に作ってあると監督も言っていた。
そもそも二つの世界(妄想と言われる世界と現実と言われる世界)で気違い扱いされれば、普通正気は保てないやなw
たぶんコールはライリー博士と一緒にいる時だけ正気でいられ、博士を抱き締めることで現実のにおいを確かめていたのだと思われる。
映画は一見タイムトラベルをテーマにしたもののように見えるが、どちらかというと破滅を夢想して内向していく気違いの映画だといえるかもしれない。

主演の3人は見応えのある演技をしていた。

それよりもコメンタリーを聞いていて、ウィルスをバラまく科学者の役をデヴィッド・モースが演じているのを初めて知った。
『交渉人』の市警の役をが印象的だったのだが、『12モンキーズ』ではやや顔がふっくらしていたので、まったく気が付かなかったのである。
監督もプロデューサーもラスト近くの空港での演技を絶賛していたが、たしかに微妙な顔の表情が非常に良かった。この人は演技の幅の広い人なんだなと改めて思った次第。

終末を感じさせる映画にルイ・アームストロングの『この素晴らしき世界』を使うというセンスはハリウッドの映画からはなかなか出てこないだろう。
キューブリックの『博士の異常な愛情』のラストで核爆発してる映像のバックに流れる『また会いましょう』と同じくらい皮肉が効いている。
テリー・ギリアムもスタンリー・キューブリックもイギリス在住のアメリカ人だ。
たぶん二人ともイギリスの露骨な身分差別的な影響を強く受けていたにちがいない。
アメリカ人などイギリス人からすれば、歴史が薄い、粗暴な国の人間程度にしか認識してないだろうから。

ところで、字幕を読んでいるうちに流れていく映像を見逃してしまうことで映画の印象が大きく変わる、という事に今更ながら気が付いたわけだが、オイラのような日記程度の感想文を書いているならまだしも、日本人で映画評論家でございと名乗ってる者は、最低限英語が話せて英語圏の文化に精通していて、当然字幕無しで映画を理解できなければカネを貰う仕事としての資格はないのと違うか?
by 16mm | 2005-04-09 00:43 | 映画・DVDの感想など。 | Trackback(2) | Comments(5)
Tracked from 太陽がくれた季節 at 2005-09-18 22:00
タイトル : ■〔映画鑑賞メモVol.3〕『ラ・ジュテ』(1962/ク..
こんばんは~ いやはや、 勤め人たるもの、三連休を控えて何かと忙しなく押せ押せの毎日ですよねぇ... 拙ブログに頂いております沢山のコメントはすべて感謝しつつ楽しく拝読しております! 『アイランド』、『エピソードIII/シスの復讐』のエントリーに頂いているコメント、 『パルプ・フィクション』、『死刑執行人もまた死す』のエントリーに頂いているコメント、 また、直近の拙エントリー『Mr.インクレディブル』、「九月の雨」に頂いているコメント等々に心よりありがたく、また、嬉しく思ってお...... more
Tracked from MoonDreamWorks at 2005-10-30 18:49
タイトル : 「 12モンキーズ 」
 昨夜、深夜TVで「 TAKESHIS' 」のベネチア映画祭でのサプライズ上映やジャパン・プレミアの特集を観ていて、天才というものを考えさせられました。天才とかカリスマとかって、もちろん本人自身の才能とかが究極的に優れていなけれれば生まれない言葉ではあるけれど、...... more
Commented by 偏屈王 at 2005-07-25 20:04 x
「12モンキーズ」のテーマ曲、ドラマティックで尚且つ不条理感を抱かせる、とても印象的な曲でしたよね。
劇場で観たときは、物語が全て空港での狙撃シーンに鮮やかに収束されていく感じにゾクゾクしたものです。
でも私もちゃんと観たのは一回のみ。
見逃してる点が一杯ありそうだなぁ(笑)。
Commented by 16mm at 2005-07-25 21:02
偏屈王さんへ。
ギリアムの映画って観れば観る程発見があるんですよね。普通に観てたのでは見逃すようなディテールを描き込んでるようだから。
『12モンキーズ』しかり『未来世紀ブラジル』しかり。
秋公開の『ブラザーグリム』が今から楽しみですw
Commented by oh_darling66 at 2005-09-18 22:08

**16mmさん、お邪魔いたします!

『ラ・ジュテ』へのTB、ありがとうございます!

『ラ・ジュテ』に刺激を受け『12モンキーズ』という映画を創造したギリアムの感性、そして、その成果たるや向き会う度に痺れます!

***

この『12モンキーズ』の魅力の一端を僕なりに言いますと、

狂気と繊細の織り成されよう、、
閉塞を生み出すものへの直感的な示しよう…、
また、希望の在り処の立ち現れよう…

ともかく、
動的な狂気…と、16mmさん仰る部分と重なりますが、内向する狂気、
それ等の示しように目を見張るばかりです。

<続く>
Commented by oh_darling66 at 2005-09-18 22:24

>テリー・ギリアムもスタンリー・キューブリックも
>イギリス在住のアメリカ人だ。

確かに、このスタンスが彼らの映画の肌理、質感(―彼らの映画にあるさまざまの意味合いでの冷ややかな空気感など)の縁となっている部分は大きいでしょうね…

また、これは中々上手く言えなくはあるのですが、
彼らの諸作に向き合っていると、冷ややかで皮肉めいたところから、不図、人間を真っ直ぐ見つめる視線、真摯さが覘くような瞬間があって、これは、僕が彼らの多くの作品に魅入らされている要因だと思えています、

***

>秋公開の『ブラザーグリム』

もう、ギリアム久々のオリジナル長編ですからね、
ともかく(^^)スクリーンで向き合ってきます、
ギリアムの新作で久々に痺れることとなれば、こんなに素晴らしいことはないのですが…、
何にせよ、無心で向き合えればと思っています!
Commented by 16mm at 2005-09-19 23:10
ダーリンさんへ。
『ブラザーズ・グリム』すごく楽しみですね。
この映画すでに去年には撮了してたみたいです。
なので最新作は『タイドランド』らしいですね。これも完成とのことです。
カンヌにこの二つを出品したらしいです。
でもギリアムには完全オリジナルで作ってもらいたいなあ。


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