『血と骨』

映画が総合芸術と言うのであれば、その作品の評価というのは演出、脚本、音楽、撮影、その他諸々が、他の映画より優れていなければならないと思う。
作品はAが優れているが、監督の演出はBという作品が優れていて、音楽はCが......などというのは総合芸術の評価の仕方として"ねじれ"があるとしか思えない。

日本アカデミー賞最優秀監督賞 の『血と骨』をDVDで観た。
作品賞は『半落ち』。脚本賞は『スウィングガールズ』の矢口監督。
最優秀な作品は監督も脚本も最優秀でなくて良いのか?

『血と骨』について率直な感想を言えば、つまらなくはない。



が、自分の基準で言えば『スウィングガールズ』や『花とアリス』、何百歩も譲って『世界の中心で愛をさけぶ』を差し置いて監督賞が貰える程の映画かは大いに疑問だと思う。
つまり監督が監督賞を貰える程の演出をしていたのか?ということである。
オイラは所謂一般映画(18禁を前提としたで映画以外)のセックスシーンでボカシをかけるのが大キライである。
日本では性器が映っていては映倫で許可されないにも関わらず、大きくボカすような映像を撮る奴の気が知れない。
ビートたけし扮する金俊平がらみのシーンの多くで画面の半分を覆う程の大きなボカしを入れていた。画面の半分をボカして観客から見えなければセックスシーンに演出なんぞいらんだろう。ボカしを画面に与えずに濃厚なセックスを演出出来ずに何の為の監督か。
性器をボカスという映像自体にコメディーの要素が含まれていると思う。どんなに緊迫したシーンであっても口元がニヤけ、多分込めようとしていたであろう意図が台無しになる。込めようとした意図があればだが。
特に銭湯で全裸の金俊平に息子が詰め寄る場面でのボカシは完全にコメディーになっている。コメディーになる筈も無い部分で無用な笑い。オイラは失笑した。
同様に娘の通夜での乱闘で遺体の布団を持って乱闘を避けようと右往左往してる様などは中途半端にコメディーだ。
原作は知らないが、この映画は金俊平を道化にしたコメディーに脚色しても良かったのではないかと思う。全裸のボカシや、自宅の近くに愛人を住まわせるなどということ自体が既に笑えるのだ。
徹底的にシリアスにするのかコメディーにするのか。監督の演出は不徹底この上ない。

鈴木京香とのカラミはボカシどころか遠慮しまくりで乳房も出さないのに、他の女優とのカラミでは過剰な程のボカし映像。
乳房がでる出ないという部分に、画面の外の"女優の意向"とか"所属事務所の方針"などの生臭い部分が見え隠れする。
結局乳房を露出しない理由もボカシを入れる程の全裸も、監督自身の美意識なんかではな無い事はあきらかだ。出せれば出す。出せないから出せない。演出の必然性や明確な意図皆無。あるのは美意識の無い監督の程度の低い助平さのみだ。

最近観たセックスシーンで良かったのは『21グラム』のショーン・ペンとナオミ・ワッツだった。性器の露出は皆無でありながら、色調やカメラの動き、そして役者の演技で非常に官能性の高いセックスシーンだった。

ボカシが大きく入ったら役者の演技だって見れないのだ。

崔洋一監督の作品ということだと思うが役者諸氏に無用な力が入り過ぎていた。演技過剰で下手に見えてしまう事もあった。
その中でオダギリジョーと松重豊は好演していたと思う。

崔洋一監督の映画は『マークスの山』は観た。
学生時代『ぼくらの七日間戦争』と(たしか)同時上映だった『花のあすか組!』が崔洋一監督作品であった。
『ぼくらの七日間戦争』はなかなか面白かった。
観る前は『花のあすか組!』も楽しみにしていたのだが、はじめてオイラが上映途中で退場した映画となった。

ところで、ラストシーンを観た感想で
「金俊平はマゾヒストである」
と書いてみる。
セックスとバイオレンスを地でいくような男がマゾというのもなんだが、心の奥底で自分にダメージを与えてくれるモノを欲していたのではないだろうかと思えたのである。
自分を嫌悪させるための暴力。過剰な暴力は、ふるわれた人間の憎悪をかきたてる。
しかし、ヤクザも震え上がる金俊平という男を物理的に痛めつける事ができる者などはいない。
唯一、15歳の時に作った子供(オダギリジョー好演)が強烈に反抗した。
厄介者にもかかわらず、自分のそばに置いていたのは、自分にやっとダメージを与える者ができた喜びがあったからではないだろうか。
そんな親の心、子知らず(当たり前だ(笑))で、その子供は自分を見捨てて出て行こうとしたから激怒して乱闘になったと考える。
決してカネをせびられたからではない。
金俊平という人は徹底的に自分を痛めつけるモノを終生さがしていたような人生だったのではないかと思う。
老いて病み、肉体の凋落はあっても精神的な強さが依然として他人に恐怖を抱かせる。
最終的には執着し続けた金を捨てるようにして北朝鮮に渡り、過酷な生活の中に進んで身を投じて晩年を迎えていった。
人に憎悪させ痛めつけられたいという願望は、国家的な暴力を振るう国に落ち着く事によりやっと成就したのではないか。
端から見れば過酷な終末かもしれないが、金俊平とっては晩年でやっと安息の地に帰りついたという風に見える。
最後の白いと息は安堵のため息だったのだと思いたい。

北朝鮮はこの世の楽園であったのだ。
by 16mm | 2005-04-10 23:15 | 映画・DVDの感想など。 | Trackback | Comments(3)
Commented by 16mm at 2005-04-10 23:32
メインサイトが60000hit。
いつもながら区切りの数字を見ると感慨深いモノがあります。
懲りずに見て頂いている方々に感謝感激雨霰。
ありがとうございます。
Commented by ちゃた at 2005-04-12 12:05 x
ろくまんヒッツおめでとうございます。
これもネコミミのなせるワザでしょうか?w いや驚きますた゚∀゚)

鈴木教科が好きで彼女の出身大学を受験し、爆散したのは良き思ひ出w
Commented by 16mm at 2005-04-12 13:44
ありがとうございます。
オイラの守護天使を犬からネコに変えようかなw

鈴木京香、オイラも結構好きで、猫背の演技が良かった『36』も観ました。
しかし、『血と骨』は良さが出てなくて残念でした。まさかこんな映画になるとは思ってなかったか、京香姐さん。それとも本人的には満足だったのだろうか。


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