『プラネテス』

宇宙ステーションが地球を周回し、人が月に住み着き、有人で火星や木星に向かって飛ぶ宇宙船があっても、人類から瓦屋根や学生服やトンカツが消えてなくなるほどSF化されていない近未来(笑)

借りたツタヤがお約束で『プラテネス』と表示してあったぞ(笑)

『プラネテス』全26話をレンタルDVDで鑑賞。その為非常に有意義なGWであった(笑)
SFとしてもドラマとしても、これと同じくらいのものを作れるなら作ってみろと言いたい。
今はっきりしてるのは、攻殻の『SAC』より『プラネテス』の方が好きになってしまったことだ(笑)
宮崎駿の『カリオストロの城』が、押井守の『ビューティフルドリーマー』がそうであったように、原作を換骨奪胎してオリジナルと言っても差し支えないような作品になっていた。
原作版とTV版どちらが優れているかというレベルではなしに、その二つの顔を持つことで見事に相互に補完しあっていたといえよう。
TV版『プラネテス』は原作版『プラネテス』とは比べられない。比べるなら、『プラネテス』とそれ以外の凡百のドラマとだ。

買おうかなDVD(笑)『SAC』売っぱらってでも欲しくなってきた(笑)



24話のラストのヒキが25話を非常に期待させるのだが、25話の冒頭は24話から数ヶ月経った状況から始まる。肝心の24話ラストの顛末は25話の中盤から語られるのだ。なので25話は冒頭からヤキモキさせられた(笑)
『エヴァンゲリオン』の2話に似た演出ではあるなと思った。
この演出が24話のラストの重さを効果的に倍増させている。そのため24話を再見した時に25話でタナベがどうなったか分かっているので、非常に、なんというか、その...

TV版『プラネテス』は他のTVドラマや映画(実写、アニメーション問わず)に比べて台詞や描写に様々な抑制を効かせているのが良い。
●キスシーンをキスしてる絵では見せない。
●25話でハチマキがタナベに言おうとした言葉を口に出さない。「この世界はすべて繋がっている。そしてそれを繋げているのは...」この点点点の部分を台詞として言わせていない。
●最終回のラスト、タナベの腰回りやハチマキの母親が洗濯しているもので状況を全て物語らせている。
私が分かるこの程度の事をイチイチ台詞にしなきゃ分からんというヤツは観る資格無し。
説明の為の台詞はアニメーションの何倍も映像に情報量がある実写でもよく使われていて、それが結果的に非常に野暮ったいものになっていると私は思う。
『プラネテス』の制作スタッフは観る側の理解力を信じて、映像で表現できるものは極力台詞にしない事選んだんだと思う。

それにしても制作スタッフは相当に優秀だったと言えよう。
オープニングのアニメーションを内容に合わせて毎回微妙に変えている。
更に宇宙空間で音を使わないで間をもたせる演出も徹底されている。こんなの『2001年宇宙の旅』でしか知らないぞオイラは(笑)
原作にないキャラクターを作り出し世界観に広がりを与えているが、最終回ではその大きく広げた風呂敷をきちんと畳めている。登場キャラクターが多いドラマでこれは驚異的なことだ。
宇宙服のデザインもTV版ではよりリアルに見えるものにリファインされている。
グローブの手のひらにスイッチを配置したり、バイザーに投影される情報の類いをヘルメットの外側からポチポチ押したりドラッグしたりできる仕組みとして考えだされていたり。見せ方としてアニメーションの特性をいかんなく示している。
TV版だからと心配していた作画の崩れもほとんどなし。立派なものである。
製作スタッフのスキルの高さが分かろう。

原作版は一応ハチマキが主役のポジションではあっても、タナベ、フィー、ユーリ、ハチマキの父親、ロックスミス等にも相当な掘り下げがなされており、言うなればサイドストーリーの集積で『プラネテス』という物語を作っているという体裁であった。
ただしそれが有効に働くのは紙媒体のコミックというメディアだったからだともいえる。
TV版でそれをやらずハチマキとタナベにある程度焦点を絞ったのは媒体の特性を考慮した上での判断だと思う。

ハチマキの造形はTV版、原作版ともにあまり変わりない。たぶん原作者(男)と脚本家(男)共に共通項として理解しやすいキャラクターだったのだと思う。
私としても非常に良く分かるキャラクターとして思い入れる事ができた。
そういう意味では心情が比較的理解出来たのはハチマキとハキムである。
「孤独も苦痛も不安も後悔も、もったいなくてなあ、てめえなんかにやれるかよー」
非情なリアリストになろうとしていたハチマキと、浮世離れして"愛"を語るタナベの正反対のベクトルで物語上での釣り合いを取ることにより、観る側はその中間点というものを探そうとする。

ロックスミスがTV版では単なるヒトデナシ(笑)の域を出なかったのは、観る側の意識をハチマキから逸らさない為であろう。ロックスミスにしてもハチマキの父親にしても原作版の方が深く造形されている。

TV版と原作版で決定的に違うのはタナベの造形ではないだろうか。
原作版のタナベはどこか浮世離れした感じがして、私からするとリアリテーに欠ける女であった。正直、原作版のタナベはよくわからなかった。なのでどんなに"愛"を叫んでも私には響いてこなかったのである。
しかし、TV版のタナベは原作の浮世離れした部分が削ぎ落とされ、社会人一年生という部分でシロウトっぽさを演出し、それ以外では原作版よりも地に足のついた女に造形されていた。
観る側がタナベの目線を通して時代と世界の状況を把握してくようにできているので、余りにもリアリティーに欠ければタナベと観る側の一体感を削ぐ事になる。
その造形が24話の"愛"についてのタナベの自問に説得力が備わっていたと思う。
24話のラスト。タナベが酸欠で死にそうになる間際に信じていた事が音を立てて崩れた。この時の絶望感。こんな残酷な事はない。この辺り。オイラの琴線をびんびんかき鳴らされた。泣ける程に。

TV版のタナベにリアリテーが増した事により、ハチマキとの関係もちょっと生々しくなっている。
原作でも二人は恋愛し結婚するのだが異性同士のというよりも、はっきり言えばセックスの匂いのまるでないものだった。ある意味非常にストイックな原作である。7年男女が離れていても"繋がっている"事は可能だという、ある種楽観的な描き方をしていた。性別を超越した繋がりの可能性というものを示唆していたようにも思える。
しかし、TV版スタッフはその事にリアリティーがもてなかったのだろう。だからTV版では木星に行く前に話を終わらせたのだと思う。原作のラストのように木星で終わらせるのではなく、名場面しり取りのプロポーズで終わらせるのは話をまとめる上ではベストの選択であろう。
TV版しり取りプロポーズは非常に良かった。作画も太陽の射すタイミングも、声優の声も。
うがった見方をすれば、原作のほぼ個人制作のコミックと比べ、アニメーション制作が否が応にも人との繋がりで作られてるという部分でのメンタリティの差が、キャラクターの造形に影響をあたえたのではないかと考える。

『宇宙戦艦ヤマト』から来て、やっと"愛"という言葉を以前程恥ずかしくなく使えるようになったんだなと思う。
原作版でロックスミスが「気安く愛を口にするんじゃねェ」と言っているが、これは原作者の言葉だと思ってよかろう。ハチマキに木星で愛することを語らせていても、やはり最終的に"愛"というものを口にする事にリアリティーが持てないのだと思う。
"愛"というのを口に出すのはやはり気持ちの悪い事ではある。が、心の中にそれは感じておくべきであろうとは思う。
それがハチマキとタナベの中間点を考えて、私が出した結論である。
TV版でハチマキが最後まで自分の女房を名前で"あい"と呼ばなかったのはそういう意味もあるのかなと勘ぐったりしているのである(笑)

でもさ、おぢさんから見て生きてる価値のない人間っていると思うぞ、愛ちゃん。
by 16mm | 2005-05-05 22:27 | 映画・DVDの感想など。 | Trackback | Comments(6)
Commented by ちゃた at 2005-05-05 23:54 x
・・・。

長ぇ!(笑)

・はじめてハチに惚れた(男性として意識した)とゆー場面
・しりとりプロポーズの場面

これらが同じ状況だったとは、女友達に指摘されるまで気付かなかった私はアホゥです(笑)どちらも単なる宇宙空間くらいの認識ですた(爆)ということは、最終話への伏線を1話から張っていたと・・・すご。

『生きてる価値のない人間』をカウントしたことはないけど(笑)いっぺんシネって人間は、社会人になってからの方が多い。奴らに共通してるのは、脳味噌が混じり気の無い保身のみで出来ていることですかね。欠片ほども愛がねぇ(´-ω-`)
Commented by 16mm at 2005-05-06 09:04
最初はこれの2倍の長さがあったのだが、誰も読んでくれなさそうなので半分削ったw
だけど、これでも長いのぉw 書いたオイラもかったるくて再度読む気にならんw

>・はじめてハチに惚れた(男性として意識した)とゆー場面
>・しりとりプロポーズの場面

これはオイラも気が付きませんでした。
ホントに単なる宇宙空間だと思ってたw
こういうTVシリーズには珍しく脚本家が一人で全部書いていたそうなので、話に一貫性を保ちやすかったんでしょうね。

>『生きてる価値のない人間』をカウントしたことはないけど

自分の中のKILL LISTの人数は結構多いと思いますw
別に人道的な気持ちでそれを実行しないのではなく、単に実行して刑務所に行くのが愚の骨頂だと思うからである(笑)
Commented by 朽駄 at 2005-06-12 23:06 x
ようやく20話まで観ました。
自分が涙もろくなったと感じたな。
4巻あたりからずっと涙が止まらなかった(笑)。
ラストに向けてかなり期待してますよ。
Commented by 16mm at 2005-06-12 23:55
朽駄さんへ。
いや、もうここまで来たら後は流れに身を任せて(笑)
ラストに向けての快感曲線はグングン上がりますよ(笑)
愛ですw
Commented by 朽駄 at 2005-06-14 00:12 x
観終わりました。
原作を知らないけど、とても良い作品だと思います。
泣いてしまうのは、現実の中に夢のようなものを
まだ期待しているからかも知れないと思った。
Commented by 16mm at 2005-06-14 09:29
朽駄さんへ。
原作も大変いいです。
タナベの扱いがまるで違いますが。
当分『プラネテス』以上の作品ってでてこないのとちゃう? と思うぐらいハマりましたw
アニメーションの技術力もさることながら、基本的な物語の作り方に長けていたと思います。


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