『SHORT PEACE』『風立ちぬ』

『SHORT PEACE』
先週土曜日MOVIXさいたま。
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同名で大友克洋の単行本の名前があり、短編映画の集まりという意味ではカッコいいタイトルだなと思っていた。
冒頭のオープニング・パートの森本晃司は予想通りの感じ。
この人は長編の劇映画を作るひとではない。
かといって短編でもなく、CMぐらいの15秒を魅力的起爆させる映像ぐらいがいい。
なので今回のオープニングもいかにも森本晃司なので短編であるにも関わらず途中で興味が失せた(笑)。
で、そこからいつものように気絶と覚醒を繰り返す。
『九十九』『火要鎮』『GAMBO』はもう記憶の断片でしかない(笑)。
SHORT PEACEの更にピースな記憶。
本作全体のテーマが"日本"としているのだが上の三本が時代劇をベースにしたファンタジー。
それがどうにも外人ウケしそうな"日本"の感じがして、正直観る前から辟易していた。
で、一番最後のカトキハジメ監督、大友克洋の原作漫画の映像化である『武器よさらば』。
これが一番良かった。
作画はCGをガイドに使っているとは思うが、
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このディティールが動くというのが魅力だね。
『武器よさらば』だけは最初から最後まで観てた(笑)。
カッケー作品になってました。
ただ最後に" 夢であいましょう"がかかるわけだけど、この手のトボケた感じのセンスというのがちょっと古くさく感じるなあ。
本作全体も特に"夢"をテーマにはしてないわけだし、ハズすためだけの選曲なら本当にハズレてるような気がする。
大友克洋のセンスのような気がするけどね。
あとパンフレットが1500円というのが高すぎなので買わなかったw。


『風立ちぬ』
ネタバレあります。
先週土曜日。
109シネマズ菖蒲。
まさかこんなことになるとは(笑)。
いったい72歳の老人に今後も期待しますと言っていいものなのだろうか?
正直観るまで徹底的にディスる気満々だったわけよ(笑)。
これで宮崎駿と決別できるなと。
本作は宮崎駿の妄想が今まで以上にダダ漏れ(笑)。
オイラの今年暫定一位。
久々の傑作だ。
いつ以来の久々かというと、オイラにとってなら『千と千尋の神隠し』以来。
『SHORT PEACE』を観た後に『風立ちぬ』を観たわけだが、妄想の強度が段違い。
72歳のの老人が強烈な妄想と映画製作の冒険心を映画に注ぎ込んでいる。
明治、大正、昭和と、実際の歴史の流れと時事を挿入しつつ、実在の人物も登場するが、ノンフィクションではない。
ファンタジー作品として観るべきだろう。
作画も宮崎駿がどのくらいチェックしているのか分からぬが、関東大震災のシーンで菜穂子が次郎の重いトランクを運ぶ感じがすごくよかった。
効果音も実際の音を加工してというわけではなく、部分的に<たぶん>肉声をつかってるのに驚いたよ。
関東大震災の地鳴りの音、プロベラ機エンジンの始動する時の音。
ジブリの短編でタモリと矢野顕子が肉声で効果音を表現した作品を作った例があるとしても、二時間チョイの劇映画で無茶苦茶な冒険するなあ(笑)。
本作をファンタジーとして意識させる為の演出なのかもしれん。
映像演出的な部分でいえば、演技のさせ方も新鮮であった。
例えば、少年時代の堀越次郎少年が夢で空から落ちて行く。
だいたい次にくるのは驚いた表情で布団を蹴散らして飛び起きる夢から覚めた堀越少年になるわけだが、本作は実に静かに目を覚ますという演技を徹底させている。
アニメーションが実写映画と違うのは、演技する役者に対して演技をなんテイクもとって編集で試行錯誤するという事ができないということだ。
アニメーションで違う演技をなんテイクも作るという事はアニメーターにその演技のバリエーションを作れというもの。
使われるかどうかわからないのに作画をさせるというのはアニメーターへの負荷ばかりではなく、労働に対する尊重を欠いたものになる。
それほどに、アニメーションの作画というものは過酷なものなのだ。
なので通常、アニメーションの監督や演出家は作画の前の絵コンテの段階で演出プランの決定や編集のタイミングまで決めているというのが原則。
だから演技に対する演出に自信が無い時は、アニメーションの場合いきおいステロタイプなものになってしまいがちになる。
夢から覚めて驚いた表情というものは定番であり、観てる側もそれに対して文句などをつけるケースはない。
しかし、宮崎駿はやった。
劇中の堀越次郎のキャラクター造形が割と飄々としてあまり激昂しないような設定であっても、夢から覚めて飛び起きない演技をさせた事はアニメーションとしてはかなりエポックメイキングなことなのではないだろうか。
押井守が『攻殻機動隊』で、弾着に火花を作画しないで演出したのと同じ位エポックなんではないか。
更に言えば、本作では途中経過を表現せずに結果だけをみせるというやり方が徹底されている。
実写だとクエンティン・タランティーノや北野武が好んで使う演出だ。
ジャンプ・カットみたいなものかな。
堀越次郎の設計した機体が墜落したのをシーンの連続でみせるのではなく、失意の次郎が軽井沢で休暇をとっているのを先にみせ、その後に回想シーンとして飛行機の墜落を僅かにみせる、とか。
次郎と菜穂子が結婚までのストロークが短い、とか。
次郎の妹と菜穂子が仲良くなるシーンがなく、台詞のみで表現されている、とか。
この演出法により物語自体が簡潔にスピーディに進む。
簡潔すぎて次郎と菜穂子のロマンスが淡白すぎるという意見があるのも分かる気がする。
しかし、オイラはこの演出を良い意味で観客の想像力に任せていると思える。
まったく必要な要素を表現してないくせに、そこは観客の想像力に委ねるといういい加減な演出家がいるなかで、宮崎のそれは観客が理解してくれる事をまったく疑わない自信に裏打ちされている。
以上の事でいえば、今までの定番のジブリ作品を期待していた向きにはポカーンとしてしまうだろう。
子供に観せてもトトロのような魅力的なキャラクターがでてくるわけもなし。
物語の吸引力だけで2時間を引っ張るには、子供にとってはハードルが高かろう。
しかし、宮崎駿も言っていたように、昔は小津安二郎の映画を観ていた子供もいたぐらいなわけで、すぐに理解出来なくてもなにかしら引っ掛かりとして子供に残るのではないかという希望を語っていた。
でも、本作はむしろ親子で観てはいけない映画だよ(笑)。
子供を連れて行った母親はギョっとするだろうし(笑)。
思春期の娘との対話に宮崎映画でも観ようと誘ったお父さんなど娘共々いたたまれない感じで硬直するだろう(笑)。
下品で申し訳ないが、『風立ちぬ』ではなく『風勃ちぬ』というタイトルが適当ではないか、と(笑)。
この手の下品なギャグを言わずにおれないのはオイラの性であろう(笑)。
次郎が菜穂子とチューをしまくるのは良いにしても、二人の結婚式の後、寝室で布団をあけて
「きて」
という菜穂子の浴衣から胸の谷間が(笑)。
宮崎駿が以前、『ラピュタ』でパズーとシータが凧に乗っているシーンについて、後ろにしがみついているシータの胸の感触をパズーが感じてない筈ないだろう、と、オイラもアっとおどろく解説を聞いてのけぞった事があった。
基本的に宮崎駿はエロスの人なのだ。
蛇足なのだが、宮崎駿の母上というのが病気で寝たきりのことがあったらしい。
当時少年だった駿少年は両親の愛情の一部を観た事があったのかなと勘ぐったりしてるのだが。
『風勃ちぬ』、もとい、『風立ちぬ』では今までにないぐらいの勢いで宮崎駿のエロスがダダ漏れである(笑)。
しかしこの描写があってこそ、二人のはかない愛情生活が短くても豊かなものであった事が分かる。
別にセックスシーンをもろに描かなくたって、隣で疲れて寝てしまった次郎に自分の布団を半分かけてあげる菜穂子の描写を描くことでも二人の愛は表現される。
そしてその濃密さが表現されればされるほどに、後々にくる二人の別れが本当に悲しいものになる。
前述した簡潔かつ省略を旨として物語を作ったのには、この次郎と菜穂子の悲恋のラブロマンスと、次郎の飛行機を作り出す様を並列して見せているからにほかならない。
菜穂子の病状を知ってあわてて汽車に飛び乗りつつ、大粒の涙をこぼし、飛行機の設計に関する計算をやっている次郎の業の深さ。
どんなに菜穂子を愛していても自分の子供の頃からの夢を捨てきれない次郎。
時代的にも男が仕事に邁進することが是であるとされていた。
現代なら会社に事情を話せば、男が育児休暇や身内の看病ができるようにはなっている。
が、劇中の堀越次郎はたとえ現代にいたとしても、夢と嫁の間でオロオロしつつも両方を同時にやっている人間かもしれない。
本作をオイラがファンタジーとして観たというのは、劇中の堀越次郎は実在した人物でありながら、宮崎駿のファンタジーが強くおりこまれているように感じたからである。
オイラが引っかかっていた
「美しいものを目指して作ったものが戦闘機であった」
という趣旨に対しても本作を観た後では自分の考えを変えざるをえなかった。
本作、基本的に貧乏人が出て来ない。
食うや食わずの人間がその時代には溢れていた筈なのに。
非常に丁寧な言葉で生活する堀越家の人々。
なに不自由なく好きな勉強に励めて、帝大を卒業した次郎。
オイラにはまったく想像がつかないのだが、そういう話し方の生活というものが確実にあるのだろう。
それと同様に、オイラのような馴染みのある下町的な下品な言葉の生活を次郎達は現実感をもてないかもしれない。
おそらく人数で言ったら堀越次郎のような生活をしていた人間は全体の一割以下だろう。
現実感を伴わない生活をしている階層を中心に据える事で、多くの人達はそれをファンタジーと認識するのかもしれない。
一般的な夢を語るには最低限衣食住に困っててはいけない。
例えば飛行機を作ろうという夢が食べる事、着る事、住む事のような現実的な望みによってはじかれてしまうから。
本作を金持ちの、貴族を描いたものだろうというのは当っていると思う。
貧乏人の苦労話より、貴族の不幸を描く。
本作の堀越次郎は恵まれた貴族でありながら、最終的には不幸な結末を予感させる終わり方になっている。
ただ美しく飛ぶ物体を作りたいと願っていた貴族の少年が、自分で飛行機を作れる様になったのは自分の努力や才能だけでなく、時代のおかげでもあった。
第二次大戦前の軍需が貴族の若者の夢を後押しした。
ただ自分に忠実に、自分の為にやっていたと思っていた行為が、後々、それこそ多くの貧乏人の棺桶となって空に飛んで行く。
機関銃をつけなければ、機体を軽くする事が出来る、なんて言葉は欺瞞でしかない。
次郎の才能によって高性能の戦闘機ができあがり、高い運動性能と長く伸びる航続距離によって、無策無能な軍人達に便利に使われたことだろう。
そんな呪われたもののために劇中の次郎は菜穂子のそばに最後まで付き添う事ができなかった。
実際の堀越次郎氏についてはどうなのかわからないが、劇中の堀越次郎は戦後公職追放となって二度と飛行機をつくれなくなったかもしれない。
オイラの思う貴族の不幸とはこのことなのだ。
宮崎駿は分かっていたのだ。
オイラが知った様に、自分のエゴで作り出した戦闘機が後年多くの若者の棺桶になったというのに「うつくしいもの云々」というのは能天気すぎないか、と思っていた。
いつの時代でも、たとえ衣食住が足りていたとしても夢を持てる人間というのは少ないのかもしれない。
だとしたら、夢を持つという事が一種の特権的な貴族なのではないだろうか。
宮崎駿は夢を持った人間の行動を肯定的に描き、更に夢をもった人間は如何なる状況下でも実現させなくてはならないと信じ、その結果が必ずしも幸福をもたらすものではないということを本作で語っていた。
どいつもこいつも夢を持ちましょう、などと考え無しに口当たりの良い事を言っているのに対し、宮崎駿からの強烈かつ過激なカウンターがきた感じ。
これがオイラの妄想でないとしたら、本作の恐ろしい趣旨を受け止めた人間はどのくらいいるのだろうか。
で、本作については本当に大好きになったわけよ。
こんな衝撃は『天空の城ラピュタ』以来かなあ。
つまり大絶賛なわけだけど、ただひとつ問題が(笑)。
言うまでもなく庵野秀明(笑)。
最初の堀越次郎の子供の頃の声と、青年になった次郎の声にあまりにもギャップがありすぎて愕然とした(笑)。
映画も後半になると庵野の声に慣れてきた所為か気にならなくもなったが、やはりもうちょっとなんとか別の人間をたてられなかったか(笑)。
本作の趣旨を考えれば、青年役であっても、あまりに清々しく好感のもてる声よりも、庵野のようなちょっと老成した声が欲しいのはわかる。
他にいなかったんだろうけど、これだけはもうちょっと粘ってほしかった(笑)。
その他声優の布陣はジブリの定番でメインのキャラクターは非声優からの登用。
ただ今回については『もののけ姫』の石田ゆり子のようなハズシはなくw、すべて納得できる登用であった。
特に菜穂子を演じた瀧本美織がすごく良かった。
この女の子TV番組で観た時にはやたら明るい感じで、正直トホホと思っていたのだけどw、菜穂子の落ち着いた感じをきちんと演じていた。
これからも声優でやっていけるんではないかな。
この声優のキャスティングは誰がやったのか知らんが、かなり良い感じなんではないかな。
オイラが大嫌いだったエンディングの十把一絡げのクレジットもきちんと役職事にもどっていて言うことなし。
今回随分ながく感想を書いてしまったが、最後にエンディングの歌。
荒井由実の『ひこうき雲』。
これも本作とベストマッチング。
この歌、まったく知らなかったんだけど、本作の締めくくりとしてはこれ以外ないぐらいのハマリ。
やばかったw。
泣きそうになった(笑)。
涙でなかったけど(笑)。
実際劇場で泣いてる人いたもんね。
オイラに関して言えばこの歌は本作とセットとして刷り込まれているので、単体で聴きたいとは思わんのだが(笑)。
もう一度観たいと思うが、今月末に絵コンテが発売されるようだし、Blu-rayが発売されるまで待つかなあ。

蛇足。
ネットで評判が悪い宮崎駿の意見表明。
『熱風』2013年7月号特集「憲法改正」
オイラなんか宮崎駿がそういう人間だということはずっと前から知っていて、むしろオイラはそれに影響されてきたわけなのよ(笑)。
で、あまりにも断片的な部分だけで批判するのもなんなので、興味ある人は読んでもらいたい。
8月20日までPDFでの閲覧もDLもできるので。
こまったもんだ。
ますますパヤオが好きになってしまった(笑)。
by 16mm | 2013-07-21 22:44 | 映画・Blu-ray・DVDの感想など。 | Trackback | Comments(2)
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Commented by chata at 2013-08-12 00:41 x
どとはんが長文のときは、とてもよい作品というあらわれ( ̄▽ ̄)
主役の声優と共に楽しみにしようw
Commented by 16mm at 2013-08-12 09:16
■re:chataさん
この時のエントリは身辺雑記をいっさい書かずに『風勃ち』wに集中してましたね(笑)。
長文は読み手の事をまったく考えてないようでお恥ずかしいです(笑)。
もうなんつーか、子供の為の漫画映画だけを作るという要件を一切考慮してない感じが、パヤオの映画としては新しいと思いますw。


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