『キングコング』

小説、漫画、映画。なんでもいいがエンターテイメント作品について理屈っぽく批判するのは野暮だというのは分かる。
が、野暮だと言う人も自分が詳しく知ってる事を適当に扱われて挿入されていたら、その作品から感情が引いてしまわないか。
1933年版の『キングコング』ならエンパイア・ステート・ビルから落ちたコングの死骸が原型を留めていてもおかしいとは思わなかったのだろう。
しかし、あの高さから落ちたら如何にコングと言えども内臓破裂でつぶれたトマトみたいになっていなくちゃおかしいだろう、と現代の情報過多の中にいるオイラは思うのである。
だからもし高層ビルから落ちた後を描写するならコングのグチャグチャな死骸を描写するか、そうしたくなければ、そうならないようなストーリーを考えるべきであろう。
それが演出というものだと思っている。



『キングコング』を劇場で鑑賞。
『ロード オブ・ザ リング』のピーター・ジャクソンだけあって、ロングショットの構図のビジュアルはすごい。
CGを当然使っているわけであるが、観客を違和感無く引き寄せる映像のリアリティーは圧倒的だ。
孤島での恐竜とのチェイスもすごかったが、圧巻はクライマックスのエンパイア・ステート・ビルでの空中戦だ。
ビルの頂上から見下ろした絶景。高層ビルの尖塔に上った巨大なコングであっても情報量を大量にぶちこんだロングショットで観ると、非常に小さく無力な猿にしか見えない。この辺りは演出プランどおりなのだろう。
更に飛行機主観の映像の浮遊感。空を飛んだ感じにするという演出を考えた場合、今後この映画の空中戦が雛形になるのではないだろうか。
『ロード オブ・ザ リング』からそうだったが、この監督、空撮や空撮を取り入れた演出が上手い。
私見だが、"飛ぶ"映画で定評のあるスピルバーグはあくまでも地上から飛行機を見上げた視点での快感を映像化するのに長けていると思う。飛翔している戦闘機のスピード感や三次元的な動きを地上にいる登場人物からの視点として魅力的に描いている。
ピーター・ジャクソンは視点そのものが空中にある。地上の登場人物を見下ろす視点だ。視点は登場人物を離れて飛翔し、浮遊する感覚のみで映像を作り上げる。
スピルバーグのように地上にいる登場人物の心象を空撮に盛り込む事の無いタイトさがある。
どちらが良いとか悪いとかではなく、ピータージャクソンのように空撮を演出する人が出て来たんだなという自分也の感想である。

さて、ではこの映画自体の感想はと言えば、ビジュアル最高、でも内容は......というものであった。
冒頭、理屈でエンターテイメント作品を貶す野暮を承知しつつも、コングの手に抱かれてあれだけ縦横無尽に動かれたら、自動車酔いどころの騒ぎでなく吐いたり失神したりするだろう。平気でいられないんじゃないのと思った。
1933年度版の『キングコング』を踏襲したといっても、その当時には思い至らなかった部分は現代に照らして書き換えをするべきなのだ。
コングに振り回されて失神しない美女。その美女はコングと一緒にいる間メシはどうしてたのか。エンパイヤ・ステート・ビルから落ちても原型を残したままの死骸。エンパイヤ・ステート・ビルの尖塔でたったまま抱き合うアンとジャック。あの高さのあの場所は強風で普通に立っていられるわけないだろう。
つまり物語、というよりもシナリオが相当に甘々である。時代とのズレに鈍感でアナクロセンスのドタバタを平気でやっているのは無惨でしかなかった。

38年間、ブ男を自覚しつつ生きているオイラ(笑)としては、大いにコングに感情移入が出来た。が、その作中の登場人物<アンさえも>は誰一人としてコングに思い入れをしていなかった。
それはコングが転落していった後、アンがジャックと抱き合っていた事からして分かる。アンがコングに感情移入していたら、強風のエンパイヤ・ステート・ビルの尖塔でジャックと感動的に抱き合うなんて事はしまい。
更にこの映画の最大の悪人、 映画監督カール・デナム。こいつが最後の台詞で
「コングは美女に殺されたんだ云々」
というのは物語的にはまったく的外れな台詞だとしか言い様が無い。
この台詞に説得力をもたせるのならコングとアンとの交歓をもっと繊細に描写すべきであった。
オイラとしては、このカール・デナムの偏執狂的で利己的な所は愛すべき部分であるとは思ったが。

アン役のナオミ・ワッツはコングが一途になってしまう程の美しさであったし、ジャック役のエイドリアン・ブロディはコングの引き立て役としてその情けない馬面を晒していた。
結局、最後アンがジャックに抱きついた所をみると、愛情を注いでくれた獣より、非力な馬面の人間を方を選ぶって事かね。

夕日や朝日を一緒に眺めるアンとコング、美女と野獣が感動的に絵になっていたのに残念な結末だ。
せめてアンとカール・デナムは劇中で死ぬべきであったと思っている。

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今年はこの映画で打ち止めである。
『男たちのYAMATO』は来年。
今DVDで『コンスタンチン』と『ネバーランド』をレンタルしている。
年内はそんな所で。
by 16mm | 2005-12-30 17:04 | 映画・DVDの感想など。 | Comments(0)


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