『パチクロ』

昨日仕事納め。
年賀状も全て書き終わる。
仕事上のレポートを年内に書き上げようと思っていたがなかなか手につかない。
年内に更新予定のHPの画像が九割がた完成。なんとか年内アップには間に合いそうである。
明日は行けたら『スキャナーダークリー』かスポーツジム。どっちかだろうな。

コミックSPA!EXTRAという雑誌にサイバラの漫画が載っていた。
立ち読みして即購入。多分SPA!なので来年あたり出るであろう『できるかな』に掲載される筈だが我慢できずに買ってしまった。
『パチクロ』。
読んでまんま『ハチクロ』のパロディーと思いきや、とんでもない。
ある意味『ハチミツとクローバー』に対するアンチを作品にしている。
考えてみれば『ハチクロ』の登場人物達は色々と悩みを抱えつつも、ことアートに関しては皆一定以上の能力を有していた。
しかし、実は美大に入った人間すべてがアートの才能を開花させるわけではない。今まで画が上手いと言われていた人間だって、美大に入れば相対的に自分の実力を意識せざるを得ず、自分の感性とやらが絶対的なものではないということを思い知らされる筈だ。
更にサイバラはこの作品の中で、画を描くのが好きで、画でご飯を食べたいと思いつつも、自分が周りと比べて圧倒的に才能が足りないという事に自覚的になってしまった人間を描いている。
私に言わせれば、もうこれは悲劇でしかない。自分の一番好きな事が努力してもやれない、到達できないということであるから。
実際オイラはそれが怖くて美大の受験から逃げ出したわけであるのだが。
しかし、サイバラは違っていたようだ。
他の人間の作品に自分が一生かかっても追いつけないと自覚しても
「かくかくかく。風はふかないけど、ぬるぬるぬる」
そうだ。サイバラは諦めなかったんだ。
才能がないのに諦めないという事を、往生際が悪いとか思われるのはサイバラだってわかっているのだ。だが自分に後がないと分かっていれば諦めるわけにはいかない。
オイラのように逃げる人間はまったく甘ちゃんだ。
勝負してないのだから。
しかし、サイバラは勝負した。
そしてオイラから見ればサイバラは勝った。

サイバラの作品は『ハチクロ』のB面。いやむしろ表の面だ。
『ハチクロ』は大好きな漫画だが、アートと人間の関わりのもっと深い残酷な部分をあまり描いていなかったと、サイバラの漫画を読んで思った。

おそるべし、サイバラ。
by 16mm | 2006-12-29 22:52 | | Trackback | Comments(6)
Commented by 通りすがり at 2007-07-10 00:57 x
パチクロを読んで、自分もアンチテーゼは感じましたが、それは別の部分にです。
本家ハチクロの主要登場人物である教師は、知識だけはあって人に教えることは得意だけど、実技はからきしで、劣等感抱えているキャラだし、そもそも主人公・竹本が、手先が器用なこと以外は特に才能もなく、就職も失敗して、全国を自転車で放浪するのがメインの話。
才能ある人間の比率が多い漫画ではありますが、凡庸な人間のどうしようもない苛立ちや焦燥感や挫折と諦念をメインに据えたから、センチメンタルな恋愛模様の多い漫画であっても、少女漫画の枠を超えて、ハチクロは売れた。
むしろ、絵の才能がないと思われていた西原嬢がそれでも頑張って一流の漫画家になったことの方が、事実は小説(漫画)より奇なりで、現実だからこそ許される。
アンチテーゼにしている部分は、そんなた凡人で貧乏な主人公が、それでも才能ある友人たちと過ごした時間は一生の宝物だったと感じることが出来、メインヒロインの一人からある意味、貧乏ゆえにふられても、友愛が成り立っている綺麗事の部分かと。
西原御大のパチクロの方のいい思い出や友人なんかなかった……というモノローグではないでしょうか。
Commented by 16mm at 2007-07-10 13:04
■re: 通りすがり さま
はじめまして。
コメントありがとうございます。
読み応えのある内容なので後ほどちゃんとこちらからもコメントしたいと思います。
しばらくおまちください。
Commented by 16mm at 2007-07-15 22:30
■re: 通りすがり さま
どうもすいません。
通りすがり さんのコメントを読ませて頂いて、自分が使ったアンチテーゼという言葉が適切ではなかったなと思いました。

サイバラの漫画や自身のエッセイを読むにつけ、彼女の学生時代というものがものすごく泥臭くて華やかさとはほど遠いものだという事をなんとなく知っていました。
美大に入り芸術や才能についての悩みや苦しみというよりも、彼女の場合はもっと生活していく、生きていく為の苦しみがあったようです。
『ハチクロ』も現実的な生活に対する不安というものも若干ですが描かれていましたが、それでも比重は自分の才能に対する苦悩というものの方が重かった。
美大を舞台にその学生を主役にすえるなら当然だと思います。
なので『ハチクロ』には、サイバラが(ネタであるとは思いますが)学食をタダで食べた話や、購買で万引きしたなどというような話の重さは出てきません。

続く。
Commented by 16mm at 2007-07-15 22:31
■re: 通りすがり さま
続き

サイバラ自身もみうらじゅんとの対談で、わたしの『ハチクロ』時代はあんな感じではなかった、などと言っていました。
つまり、サイバラ自身も自分の芸術の才能についての苦悩を感じつつも、更に画で食べていくという事への現実的な焦りがあった事が『ハチクロ』をぬるく感じさせたのかなと思います。
ただ『ハチクロ』でそんな重さを描いていたら、あれだけのヒットには繋がらなかったでしょう。
実際、私もあの『ハチクロ』のクライマックスでやられたクチですから(笑)

画が好きで、画を一生描き続けて、それで生活していけたら。
これがたぶんサイバラの願いだったのかもしれません。
『ハチクロ』が描いていたのは画が好きで、画を一生描き続けていきたい。その為だけのある意味ストイックな苦悩であり、それを現実的おカネに換算するというサイバラの感覚とは相容れなないものなのだと思います。

それでも私は『ハチクロ』もサイバラも大好きなんですがね。
Commented by 通りすがり at 2007-07-16 13:04 x
ご丁寧なお返事ありがとうございます。
なるほど! アンチテーゼにしている部分は、そっちの方かもしれませんね。
ハチクロのありえなさは才能や苦悩のあるなしやモラトリアムが許されていることではなく、人間関係のぬるさや甘さだと思っていたもので……。
それにしても、正攻法でハチクロのそういった部分に噛み付いたら、主人公が放浪先で出合った、生活のために働いてきたと主張する不幸自慢の元ヤンキーみたいになってしまうところを、お得意の叙情で流したのがまたうまかった。
西原は本当に臨機応変というか、したたかで、さすがだと思います。
Commented by 16mm at 2007-07-16 19:12
■re: 通りすがり さま
つたない文章にお付き合いくださりありがとうございます。
『ハチクロ』については竹本の自分探しまでは、それなりに面白いとは思いつつも他のラブコメと同じだなと感じていました。
しかし8巻半ばから9巻にかけての、はぐと森田の物語が怒濤のごとく並行して進行したことで襟を正しました。
この二人の物語は、二人の才能にまつわる特殊性と相俟って感情移入がしづらい所為か印象として非常にドライなものだったと思います。
それでいて感情表現のタイトさとスピードアップされた進行でグイグイと引きつけられました。
そして最後に、たぶん私を含めた読者が唯一感情移入できるであろう竹本を中心に大団円で物語をおさめる。
四葉のクローバーは食材としては使ってはいけないらしいですが(笑)もうそんな事はどうでもよく、はぐの想いと竹本の想いがストレートにつたわり感動的でした。
自分としては名作の部類に入るのではないかと思ってます。


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